コラム

リサーチャーという仕事──「答えのない問い」に向き合う日々

エグゼクティブサーチにおけるリサーチャーの仕事は、具体的にどのような業務をしているのか、まだあまり知られていないと感じます。

仕事の内容は、単に企業が求める人材を“探す”ことにとどまりません。企業の置かれた状況や組織課題、経営層の想いや文化に丁寧に耳を傾け、その先にある「未来像」を共有することから始まります。

つまり、必要とされる人材要件を、単なるスキルや経歴だけでなく、組織との相性や価値観まで含めて構造的に捉えたうえで、まだ出会っていない候補者を膨大な情報の海の中から仮説と検証を繰り返しながら導き出す――そんなプロセスです。

「探す」とひと言で言っても、案件ごとにやり方は全く異なります。それは、働いている人たちの特性や組織の性質が異なるからこそ、「どこにその人がいるのか」という正解があらかじめ用意されていないからです。

だからこそ、案件が発生するたびに問い続けます。

──この業界はどんな構造を持っているのか?
──この職種に多い人材特性とは?
──どの情報源が突破口になり得るか?

そうして一つひとつの案件に向き合い、仮説を立てながら情報を追い続けます。

正解がないからこそ難しい仕事ですが、経験を重ねることで次第に自分なりのスタイルが生まれ、全く異なる業界であっても、過去の知見から“勘”が働くようになる瞬間があります。そして、自分の中に「必ず見つけられる」という確かな感覚が生まれてくるのです。

私自身、エグゼクティブ層や技術系ポジションを中心に、十年以上にわたりこの仕事に携わってきました。インターネットや論文、業界誌、書籍、SNSなど、ありとあらゆる情報を手がかりに、断片を一つずつ拾い集めて候補者像を組み立てていきます。

検索軸を微調整しながら対象を構造的に捉えるこのプロセスこそ、“問いに向き合う仕事”の本質であり、リサーチャーという職種の核だと感じています。

もちろん、華やかなポジションではなく、私たちの存在はあまり表には出てきません。

それでも、企業と候補者の「最初の接点」をつくるという意味では、サーチの成否を大きく左右する責任を担っています。

だからこそ、どんなに情報が少なくても、どんなに見つけづらいテーマであっても、「必ず糸口がある」という前提で探し続ける。地味でも、粘り強く取り組む姿勢がこの仕事には欠かせません。

そして、リサーチを続けていると、思いがけない出会いや発見にも数多く出会います。

多様なバックグラウンドを持つ方々のキャリアや働き方に触れるたびに、自分自身が刺激を受け、視野が広がっていくのを感じます。とくに第一線で活躍されている方の視点や生き方には、毎回多くの学びがあります。

そうした出会いがあるからこそ、この仕事に誇りと手応えを感じられるのだと思っています。

エグゼクティブサーチにおいて、リサーチャーは単なる裏方ではありません。目には見えにくいけれど、確かに組織と人の出会いをつなぐ“起点”であり、“見えない価値”を形にする存在です。

企業が未来に進むための一歩を、そっと背中から押すような、そんな役割を、これからも誠実に担っていけたらと思っています。

エグゼクティブアシスタント
吉田奈津紀